解剖の旅① ー飛行機にて

声を、見に行く。
アメリカへの飛行機の中である。
外は暗くて、でも下には白く雲の海が広がっている。その下にはおそらく本物の海が。

細切れに眠りながら、なんでこんなに声から目が離せなかったんだろうなぁ私はとぼんやり考えたりしている。
機内の暗さが、舞台袖のそれと少し似ている。

隣には解剖学と運動学の先生が。
道中、動物と私たちの発声への身体の参加具合の差について話す。二足歩行を選んだ影響はどんなところに出ているんだろう。別のものに学ぶことは、きっと自分たちを知るのにとても助けになると思うのだけれど。

人の身体は意志とともにある。
と、もうずっと唸ってばかりだ。

子宮で小さく小さく丸まる胎児。
猫背で生まれる赤ん坊は、前を上を見ようと例えばお母さんを見上げるうちに首が反り、立とう歩こうと腰が反り仙尾骨は後弯する。
そんな風に背骨はS字になっていく。一生付き合う身体が。

声もしかり。
必要なものはすべてもう揃っている。
どう使ってきたのか。
どう使いたいのか。
意志とともにある。
声はおもしろい。

この数年で、身体と声に対して持っていた私の地図はすっかり別のものになってしまった。秋からこちらでさえ。
ずっと変わり続ける。
今見えているものは今だけのもの。言葉にならないことも多いのだけど、なるべく書きとめておこうと思う。

数日後にはスカルペルを握っている。
解剖を終えたら、何が見えるんだろうか。

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